8. 2025年末の追記事項

7.では、問題の核心として、未修正オリジナルバージョン(サンダンス版)の海外配給権がすでにセールス・エージェントに2024年のサンダンス前後でおそらく譲渡されているため、その修正や回収が現実的には難しいだろうこと、その点についての説明責任が、製作者側に問われている最も重い問いであることを書いた。(後の報道でやはり2024年1月に譲渡されていることが確実となった)

改めて書いておきたいが、私がこの文書を残しているのは、自分が考えたことの記録という側面と共に、ドキュメンタリー映画の制作者たちに対して(自分も含む、未来の作り手も含む)、この問題を「私たちは」どう捉えるべきなのかという問題意識を共有するためだ。

私は法律の専門家でもなく、映画批評家でもなく、ジャーナリストでもライターでも観客でもない。あくまで、様々な監督やプロデューサーやカメラパーソンや編集者や出演者と共に、ドキュメンタリー映画を作ることで金を稼ぎ、生活をしている「一人の映画スタッフ」「現場の労働者」の視点から、この議論を残していくことが目的だ(そしてこれは別に「連載」というつもりもないし、前回の議論で「終わり」のつもりもない。書きたいことがあれば追加していくかもしれないし、忙しすぎて放置という事になるかもしれないし、いずれ必要性がなくなったと私が思えば消すかもしれないし…どれでもいい。誰かから依頼されて書いているわけでもなく、書くことを商売にしているわけでもなく。擁護派ー批判派のような二極化が加速する場から離れて、作り手たちが長期的に考えていくための記録を、勝手に自分のページで書いてることなので…)。

この立場からの問題意識を少し書いておく。
私は現場では録音を担当するので、「出演者(被写体)」と「人と人として接する」ことを仕事にしている。ラベリアマイク(いわゆるピンマイク)を出演者の方に仕込むことも多く、現場では出演者と身体的に最も近い位置で接触する唯一のスタッフでもある(監督や撮影はそこまで近づくことは通常はないだろう)。撮影していない時間も空間も、出演者の方々と共有していくので、その後「作品」がどんな形になって観客に届いていっても、私個人からすれば「あの人は今、元気にやっているのかな」という距離感でその人のことを想う事になる。作品の中の「出演者」ではなく「あの土地で、あの家で暮らしている何々さん」という、「映画の中の何々さん」ではなく、「同じ時代を共に生きている何々さん」として考える事になる。

ここの観点が、様々な他の立場の方達とは最も異なるのかな、と思っている。「私たち作り手」と「出演者(被写体)」の関係は、「映画」の外で、この現実の世界でいつまでも続いていくという事だ。だからこそ「出演者」が望まない形で「作品が完成して残っていく」事は、「最も避けなければならない」事態だと考える。観客にとってそれは「瑣末な問題」なのかもしれないが、「作り手」から見れば、それが結果的に避けられなかった作品は「悲しく不幸な作品」だと評価せざるを得ないからだ。


ここからが8.の本題
(なのだけど、一番書きたい事は書いてしまったかも…。本題にはならないけど、経緯の記録)

7.で2025年2月(元弁護団会見と伊藤さん側の声明)から12月の日本公開までに、双方の代理人同士でどのようなやり取りがなされていたのかについて報道から読み取れる範囲で触れたが、その後、代理人同士のやり取りの経緯が詳細に分かるライターの方の記事が公開された。その後、伊藤さん本人が、伊藤さん側代理人から相手方代理人に送付した「委任関係終了の通知」の文書をそのまま開示した。


「修正版を見せたい」「書面で答えて」伊藤詩織『Black Box Diaries』日本公開の裏で何が…元代理人と修正をめぐるファクス泥沼60枚超の全容 https://shueisha.online/articles/-/256158


伊藤さんのXでのポスト(原文
「「伊藤側の弁護士が辞任」と報じられていますが、事実関係が正確でないので相手方代理人に送付した「委任関係終了の通知」を公開し、説明に代えさせていただきます。師岡、神原元弁護士ご尽力のおかげで、日本での公開を迎えられました。お二人に心より感謝申し上げます。」


この記事と、伊藤さん側の通知書を読み比べて、私は伊藤さん側弁護士の通知の文章はかなり一方的だなと「感じた」。弁護士同士のやり取りってそういうものなのかどうかは、私はよく知らないが…。
そこには「全体から省略している部分」が多すぎると感じる。

ただ、認知バイアスは誰も避けられないので、(本当はあまり使いたくないけど…)Chat GPTに前者の記事のうち6月〜12月のやり取りの事実経過が語られている部分、それに加えて伊藤さんのXポストと伊藤さん側弁護士からの通知文全てを読んでもらい、時系列の表を作ってもらった。

(表をこのページの最下部に付けておく)

左は記事ベースの事実経過。右が神原・師岡弁護士が通知書で記述した部分だ。

自分がフラットな気持ちでこの対照表を見直すと、伊藤さん側弁護士の通知書はあまりに一方的に経過を省略しているなとやはり感じる。佃弁護士らは一貫して「現状把握」のための書面回答を求めてきたが、これらの質問は無視し続ける形で「対面提案」を要求している。

神原さんたちの通知書にしか書かれていない内容についても、特にこの全体構造には変化がない。
2月27日に佃弁護士の事務所で「協議」を打診していると書かれているが、佃弁護士はCCTVについての妥協を拒否したようだ。これは最初の10月会見から一貫して元弁護団が求め続け無視され続けている点。
3月3日に、協議の前提として伊藤さんの会見を元弁護団側が求めたとだけあるが、会見は行われていないため、協議にも進めないのは当たり前では…と思える。

この表を作ってくれたAIに
「Xのポストと通知書の文面を読んだ「印象」と、「記事ベース」の時系列とを比較したときに、このやり取りをどう評価する?短く文章にしてみて」
と聞いてみた。その結果を下記にそのままペーストする。

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本件をめぐる一連のやり取りについて、X上の投稿および伊藤詩織氏代理人による通知書を読むと、「伊藤氏側は一貫して誠実な話し合いを求めていたが、相手方がそれを拒否し続けたため、やむなく委任関係を終了した」という印象を受ける読者は少なくないだろう。

しかし、公開されている記事および当事者間で実際に交わされた文書の時系列を整理して比較すると、その印象と事実経過との間には、看過できないズレが存在する。

記事ベースの時系列によれば、2024年6月24日以降、相手方代理人は、映画が海外で上映・配信・円盤化されている状況について、**「修正版が実際に使用されているのか否か」**という具体的な事実確認を、文書(FAX)によって繰り返し求めている。これらの質問は、是非や賛否を問うものではなく、上映の実態を明らかにするための限定的かつ具体的な照会であった。

これに対し、伊藤氏側代理人は、複数回にわたり「問題がデリケートで複雑である」「本人が直接説明したい」「話し合いの場を設けたい」と応答しているものの、質問そのものに対する具体的な回答は示されていない。結果として、事実確認を求める問いと、それに対する直接的な回答が噛み合わない状態が、数か月にわたって継続している。

通知書やX投稿において強調されている「対話の拒否」という評価は、主として対面での面談要請が受け入れられなかったことを指している。しかし、相手方が求めていたのは、対面での説明そのものではなく、上映の実態に関する文書での明確な回答であった点を踏まえると、「対話拒否」という表現は、事実関係を単純化しすぎている可能性がある。

また、通知書では2024年2月から3月にかけてのやり取りが詳細に描写される一方で、6月以降に集中している事実確認のやり取りについては、ほとんど触れられていない。この時間的な取捨選択は、読み手に特定の印象を与える効果を持つが、全体像を理解するうえでは注意が必要である。


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追加で、「さらに踏み込んで、両者の代理人の誠実度をジャッジしてみて。なるべく短く」と質問した。その回答をペーストする。

両代理人の誠実度に関する短評
記録されたやり取りを見る限り、佃弁護士側は、海外上映において修正版が実際に用いられているかという具体的な事実確認を、文書で一貫して求め続けている。これは代理人として合理的で、手続的にも誠実な対応である。

一方、伊藤氏側代理人は、対面での説明や話し合いの姿勢を強調する一方で、当該事実確認に対する明確な回答を示さないまま、「対話拒否」という評価に置き換えている。

したがって、本件における誠実度は、事実確認への応答を優先した佃弁護士側の方が高いと評価するのが、記録に即した判断である。

私も概ねAI評価に同意だ。記事に書かれた経緯と、通知書に書かれた経緯を読み比べてみても、AIの評価と同じにしかならない。これもやはりバイアスなのかどうか。バトルフィールドをチラリと覗いてみると、真逆の評価の声が大きいらしいが、私個人としては意味が分からない。どう読んだらそのような評価に…?
(個人的にはAIに頼ると考える力がどんどん失われてしまう危機感があるので、今回はあくまで参考として、それぞれが考えて欲しい。自分はどちらの文章も読んだ上で感じた「偏りの大きさ」を検証してみるために、AIを使用した)

SNSでの議論と、自分が公になっている情報を元に考え評価した内容(AIとほぼ一致)との圧倒的な乖離。
これも、2025年末の記録として。
海外版の修正については、今だ何も説明がないままに上映拡大は継続中だ。
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